梅毒とは

梅毒イメージ

梅毒は「梅毒トレポネーマ」という病原体に感染することによって起こる性感染症です。1990年代までは日本での患者数は年間1,000人を下回っていましたが、ここ数年、大幅に増えており、2021年には6,940例が報告されています。最近では女性、特に20代の女性に増加しているのも特徴です。

感染者との粘膜の接触を伴う性行為(アナルセックスやオーラルセックスも含む)などによるものが主な感染経路で、潜伏期間は3~6週間程度あります。また初期段階では「腫れ」や「しこり」などが現れますが、治療はせずとも数週間で症状が一度消えるため、見過ごされてしまうこともあります。また梅毒を診療したことがある医師も少なくなっており、湿疹や蕁麻疹、アトピーなどの皮膚症状と見分けることが難しい場合もあります。

梅毒は、以前は心臓や神経にも障害が表れ、最終的には命にも関わる病気でしたが、ペニシリン系抗生剤による治療が確立してからは、日本で梅毒による死者はほとんどいなくなりました。しかし、症状で苦しまないためにも、またパートナーに感染させないためにも、早期発見、早期治療が重要になります。何らかの不安を感じた場合には、お早めに専門の医師にご相談ください。

梅毒の症状

梅毒は、感染からの経過時間および症状により、「早期顕症梅毒(第1期、第2期)」、「晩期顕症梅毒(第3期、第4期)」、そして梅毒血清反応陽性ですが症状はみられない時期の「無症候性梅毒(潜伏梅毒)」に分けられます。

第1期

感染後3週間くらいの時期になります。病原体である梅毒トレポネーマが侵入した粘膜や皮膚に、痛みのない初期硬結と呼ばれる小さなしこりができ、しばらくするとその中心部に硬性下疳(こうせいげかん)と呼ばれる潰瘍ができます。男性の場合は陰茎の亀頭あるいは亀頭冠状に、女性の場合は小陰唇にできることが多くなっています。

その後、鼠径部(足の付け根)といった感染部位の近くのリンパ節がかなり腫れることがありますが、痛みはありません。これらの症状は治療しなくとも、数週間でいったん収まってしまい、無症候性梅毒となってしまうため、そのまま見過ごされることも少なくありません。

第2期

感染後3ヶ月程度の時期で、第1期の後に4~10週間の潜伏期を経て、梅毒トレポネーマが血液を通じて全身に広がった段階になります。全身にかゆみや痛みをともなわない赤い発疹(梅毒性バラ疹)が多数現れます。他に全身のリンパ節が腫れたり、性器や肛門周囲に扁平コンジローマと呼ばれる平らなしこりができたり、口腔粘膜に発疹ができたりする場合もあります。

また第2期では、発熱や倦怠感などの全身症状が出ることも少なくありません。しかし、この第2期でも、治療を行わなくとも、症状は数週間~数ヶ月で収まってしまい、潜伏梅毒として病状は進行してしまいます。

第3期

第2期のあとの無症候性梅毒の期間を経て(感染後3年程度)、未知量のままですと、第3期梅毒となります。すると皮膚や筋肉、骨、内臓にゴムのような大きなしこりができます。これが「結節性梅毒疹」または「ゴム腫」と呼ばれるものです。治療法が確立した現在では、この段階まで進行するケースはほとんどありません。

第4期

さらに治療をせずに感染から10年~数10年経つと、脊髄癆(ろう)や進行麻痺といった神経疾患や、大動脈拡張、心血管梅毒などの心疾患をきたします。さらに目などにも重い疾患を引き起こします。この段階が第4期梅毒で、命に関わる状態ですが、第3期同様、治療を行えば、この段階に進行することはまれです。

この他、「先天梅毒」と呼ばれるものがあります。これは、母胎が梅毒に感染しており、胎盤を介して胎児に感染したもので、症状としては、主に生後まもなく水疱性発疹、斑状発疹,丘疹状などの皮膚病変、また鼻閉、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎などの症状が現れます。年間に10例ほどの報告があります。

梅毒の検査

上記のような、梅毒を疑われる症状がみられた場合、または梅毒が疑われる人との性交渉をもった場合、医療機関で検査を受けるようにしましょう。梅毒は、男女に限らず口腔性交でも感染するなど、性器以外にも口唇、口腔粘膜、肛門周囲などに感染することもあります。また男性同士の性交渉は、感染の危険性が高いと言われています。

検査では上記のような経緯があったかどうかなどの問診や、皮膚などの視診を行いさらに血液検査にて、血液中の梅毒トレポネーマに対する抗体の有無を確認します。ただし、梅毒には約3週間の潜伏期間があり、それまでは抗体が産出されないため、陰性判定となり見逃される場合があり、検査の時期に関しては注意する必要があります。

近年では健診によって、無症候性梅毒の段階(第1期と2期の間、および2期と3期の間)で梅毒が発見されることも多くなっています。疑わしい症状が現れ、その後、それが消失したとしても、早期発見、早期治療が感染予防のために梅毒では重要ですので、不安がある場合は検査することをお勧めします。

梅毒の治療

梅毒の治療には、ペニシリン系の抗菌薬が有効です。日本国内では、アモキシシリンなどの経口合成ペニシリン剤を長期間、内服する治療が一般的となっています。服用期間の目安としては、第1期の場合2~4週間、第2期の場合4~8週間となっています。途中で服用を中断してしまうと、症状が再び現れてしまうこともありますので、必ず医師の指示に従い、服用期間を守るようにしましょう。
一方海外では、ベンジルペニシリンベンザチン水和物と呼ばれるペニシリンの筋肉注射薬による治療が一般的です。これは早期の梅毒では1回(病期によっては3回)の注射で済むため、飲み忘れや服用の中断がなく、非常に注目すべきものです。長く国内では使用できませんでしたが、2021年9月に、治療薬ペニシリン「持続性ペニシリン製剤(商品名ステルイズ)」の筋肉注射が日本でも承認されました。これはアメリカCDC(疾病予防管理センター)でも推奨されている世界標準の治療法です。
医療法人男健会 北村クリニック本院(四条烏丸)ではこのステルイズの注射による治療も行っています。この筋肉注射は、粘性の高い薬液を使用するため、比較的太い注射針で、臀部の筋肉に注射する必要があります。投与の実際では臀部注射にあたって麻酔シール薬を使用するなど、注射による痛みの軽減を図っており、実際にほとんど痛みがないものとなっていますので心配ありません。ただし、血液さらさらの薬を飲んでいたり、筋肉や骨格の問題で臀部筋注が不適切だったりする場合は、筋肉注射による治療ができない場合もあります。本院では患者さん一人一人の状態に合わせ、丁寧に診断した上で、治療を選択し、進めていきます。