HIVとは

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HIVとは「Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)」の頭文字をとった略称で、ウイルスの名前です。エイズと同一視されがちですが、正確に言うと、HIVに感染した人が免疫の低下によって、エイズ診断のための指標疾患(23疾患)のいずれかを発症した状態のことを、エイズ(後天性免疫不全症候群/AIDS=Acquired Immunodeficiency Syndrome)と呼びます。HIVに感染していても、この指標疾患を発症しなければエイズとは呼ばれません。

エイズはHIVに感染してすぐに発症するものではなく、感染後、それを放置したまま、数年~10年という期間が経過すると症状が現れます。その間、HIVが体内で次第に増殖して、人間の免疫反応を担うTリンパ球やマクロファージ(CD4陽性細胞と言われるもの)などに感染し、それらが減少します。すると免疫力が低下するで、様々なエイズの症状が現れるのです。

HIVは、血液、精液、膣分泌液などが感染源で、これらが口、ペニス、尿道、膣など相手の粘膜部分に接触することで感染に至る場合があります。唾液や尿、便、汗、涙などの体液に接触しても感染する可能性はなく、空気感染や食物など、性行為以外での日常的な接触で感染することはありません。他の感染例としては、注射の使い回しや、現在ではほとんどなくなっていますが輸血などが挙げられます。他に母親の胎盤や産道、母乳を通して子どもに感染する母子感染がありますが、きちんと管理することでリスクを軽減することができます。

エイズは恐ろしい病気というイメージがありますが、たとえHIVに感染したとしても、その増殖を抑えられれば、エイズの発症には至らないようにすることができます。近年では体内でのHIVの増殖を抑える、多数の有効な薬が登場しています。実際に、エイズに進行してしまう患者さんは少なくなっており、病気の発症のコントロールができるようになってきています。

ウイルスの抑制が上手くいっている症例では、ほぼHIV非感染の場合と同様の生活が送れますし、他への感染もないものと考えられています。そこで大切なのが早期発見です。性風俗などの接触リスクが高いにも関わらず全く検査などしていないため、エイズを発症して初めてHIV感染症が発見される「いきなりエイズ」みたいな症例も散見されます。抵抗はあるかもしれませんが、罹患の可能性を感じた場合は、案ずるよりも、まずはお早めに検査をお受けください。

HIV(エイズ)の症状

感染していることも少なくありません。症状が出る場合は、感染後1~3週間で発症することが多くなっています。淋病同様、男性の場合は尿道炎が、女性の場合は子宮頚管炎が引き起こされることが多くあります。

感染初期

HIV感染後、2週間ほどで発熱や頭痛、のどの痛み、リンパ節の腫れ、筋肉痛、下痢といったインフルエンザに似た症状がみられます。これらは数日~数週間ほどで治まり、無症候期へと移行します。

無症候期

期間に個人差はありますが、数年~10年ほどの間、無症状の期間が続きます。ただし、この間も体内ではHIVが増殖していて、免疫力が少しずつ低下していきます。

エイズ発症期

数年~10年後、Tリンパ球やマクロファージなどが急激に減少することで、著しい免疫機能の低下が起こり、エイズを発症します。

エイズを発症すると、通常の免疫力が備わっていれば抑えられる真菌(カビ)などに感染してしまい、重い肺炎などを引き起こします。こうした通常の免疫力があれば罹らないはずの感染症を「日和見感染症」といい、カンジダ感染症、ニューモシスティス肺炎、クリプトコッカス髄膜炎、非定型抗酸菌感染、結核、サイトメガロウイルス感染などが挙げられます。

また悪性腫瘍が発症しやすくなり、子宮頸けいがんやカポジ肉腫、リンパ腫など一部のがんの発症率が上昇することがわかっています。さらに食欲低下・下痢などの症状が現れるようになることで著しい衰弱状態に陥ることもあります。また認知症症状(HIV脳症)や腎障害が現れる場合があります。

厚生労働省によるエイズ診断のための指標疾患(23疾患)について

A. 真菌症
  1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
  2. クリプトッコカス症(肺以外)
  3. コクシジオイデス症
  4. ヒストプラズマ症
  5. ニューモシスティス肺炎
B. 原虫症
  1. トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後)
  2. クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
  3. イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)
C. 細菌感染症
  1. 化膿性細菌感染症
  2. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
  3. 活動性結核(肺結核または肺外結核)
  4. 非結核性抗酸菌症
D. ウイルス感染症
  1. サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
  2. 単純ヘルペスウイルス感染症
  3. 進行性多巣性白質脳症
E. 腫瘍
  1. カポジ肉腫
  2. 原発性脳リンパ腫
  3. 非ホジキンリンパ腫
  4. 浸潤性子宮頸がん
F. その他
  1. 反復性肺炎
  2. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
  3. HIV脳症(痴呆または亜急性脳炎)
  4. HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病)

HIVの検査

エイズ(HIV/ヒト免疫不全ウイルスへの感染)が疑われる場合は、血液を採取してのHIV抗体スクリーニング検査を行います。これにより抗体を検査し、HIV感染の有無を確認します。HIVにはHIV1型とHIV2型があり、当院では検診時HIV1型とHIV2型両方の、抗原、抗体を調べています。ただしHIVに感染して体内に抗体ができ検出されるようになるまで日数がかかります。国のガイドラインでは3ヶ月以上経過してから検査を受けるように示されており、感染疑いのある機会から3ヶ月のタイミングで検査するようにします。

血液検査では、リンパ球の数を確認することで、重症度を見極めることもできます。さらにエイズ発症による重度の肺炎や敗血症、がんなどによる炎症の度合いや、栄養状態、貧血の度合いなど、全身状態見ていくことに血液検査は有効です。治療の過程では定期的に血液検査を行っていくことになります。

検査としてはこの他に、エイズ発症に伴って現れた疾患や症状に即して、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査を行い、臓器の状態を確認していきます。

HIV検査にて異常が見られた場合には、当院では、専門の高次指定医療機関を速やかにご紹介し、精査および治療を受けていただけるようにしています。検査結果、診察内容につきましては、プライバシー保護に配慮しております。

HIVの治療

現在、HIVを完全に体内から排除して完治させることは難しいものとなっています。しかし、有効な抗HIV薬が多数登場しており、それらを組み合わせた薬物療法を行っていくことで、HIVに感染してもエイズの発症を抑え、通常と同様の生活が送れるようになり、他者への感染も抑えることが可能になっています。

薬物療法では、多くの場合は1錠に2~3種類の成分が含まれる合剤を服用します。定期的に血液検査を行い、HIVの量や、CD4陽性細胞の数を確認し、薬剤に対する体制などを調べ、結果によっては異なる成分の薬剤を服用するようにする場合もあります。薬を飲み忘れたり、途中でやめてしまったりすると、薬剤耐性HIVが発生する原因となるため、必ず医師の指示に従い、継続して服用するようにしてください。

エイズを発症してしまい、日和見感染症やがんなど様々な症状が出てしまっている場合は、それぞれの病気に合わせて、抗菌薬、抗真菌薬、抗ヘルペス薬、抗がん剤などを用いた治療を行う必要があります。また肺炎を引き起こし、呼吸困難の症状がある場合は人工呼吸器装着を、食欲低下や下痢によって低栄養状態になってしまった場合は経管栄養を行うなど、エイズを原因とする様々な症状に対応するための処置を、状況に応じて行っていきます。